2019年7月13日 (土)

似ていれば良いわけではない

このblogで何度も書いている通り、特許調査で最も重要なのが「何を探すか」ということであり、例えば出願前調査や無効資料調査のような特許性の調査であれば、対象発明/出願/特許の新規性・進歩性を否定し得る資料が探す対象になります。

ところで、最近AIによる類似公報検索システムが発表され話題になっていました。しかし特許実務に携わる人なら、類似の特許を探すこととと進歩性を否定する資料を探すこと同じではないという事は理解できることと思います。提供元もそれを理解したうえで「類似公報」検索と銘打っているのだと思います。では特許性調査として類似公報を検出すると実際にどのような乖離があるでしょうか。

例えば「ABCDを有する装置X」という特許に対する無効資料調査で考えます。この場合、どのような資料が進歩性を否定できるかは記載内容や審査(審判/裁判)の推移によって変わります。もしABCを有する装置Xが公知であって、新たにDを備えた事が発明の特徴である場合、Dが記載されている事が進歩性を否定するための絶対条件になります。見つけた資料にABCDすべてが記載されてなくてもABDとかADとか、場合によっては装置XがDを有する事を示すことで進歩性を否定できる可能性があります。この時に探し出す対象は「Dを有する装置X」という記載になります。しかしながらAIによる類似公報では文章の類似度が判断基準になります。したがって「ABCDを有する装置X」に対して類似度が高いのは「ABCを有する装置X」であって、本当は欲しい「Dを有する装置X」という資料は類似度が低いと判定されるでしょう。このようなケースでは類似公報検索では本当に必要な無効資料を見落とす可能性があります。

それに対して出願前調査では、対象発明にほぼ同一または類似度の高い資料が存在することがある程度見込まれ、そのような資料で新規性や進歩性を否定できる可能性は高いでしょう。したがって類似公報検索を用いて出願前調査を行うことは、精度が十分向上すれば「実用面では」理にかなっているといえます。しかしながらそれは「類似した資料を探したら特許性が否定できた」のであって「特許性を否定できる資料を探す」事とは根本的に違うのです。

よってAI類似公報検索を用いること自体に意義はあっても、実際に活用するのであれば「目的に合致する資料を探す」という特許調査の本質とは全く異なる作業が行われているという事を常に認識しておく必要があると思います。

2019年6月30日 (日)

初めての大阪(出張)

昨年に続いてドクガク氏が企画する 弁理士の日記念ブログ企画2019 への参加エントリーです。今年のテーマは「知財業界での初体験」ということなので、息抜きついでに昔話をグダグダ書かせていただきます。

著者が前職であるメーカー研究者を辞して知財系企業に転職したのは1999年、元号という前近代的制度でいうと平成11年という数字でわかるとおり、特許の電子出願が始まってまだ数年という頃。公報全文を網羅的に検索可能なツールはまだなく、特許検索といえば今は亡きPATOLIS(!!)という抄録を収録したデータベースを電話回線(telnet接続!)で検索するのがせいぜいだった時代。特許調査として行う作業としては「マニュアル調査」が大半でした。発行された公報を分類別に年毎にまとめて冊子体に製本されたものがあり、これを指定の年度分、全件目視して内容を確認するいわゆる「手めくり」です。東京だと通産省(当時)別館の閲覧室という部屋にずらっと並んだ百科事典みたいな公報冊子体を数十~数百冊、ひたすらシャカシャカめくるという仕事を毎日のようにしていました。これももちろん知財業界での初体験ですが…

通産省別館閲覧室は、特許/実用の公開・公表・再公表・公告・登録・新実用登録の各種公報がIPCサブグループ別に冊子化されていました。件数が少ない分類だと1年分で複数グループが1冊にまとまってましたが、H01L21/00のような件数が多い分類だとそれだけで年数十冊と大量でした。その大量な資料を収納するにはやはりキャパが足らず、実は所蔵が直近20年分だけ!!それより古い公報は別の場所に保管されていたのでした。

そこは「関西特許情報センター」の名前のとおり大阪は四天王寺前夕陽ヶ丘駅近くにありましたが、普段は昔の名前である夕陽丘図書館という呼び方をしてました。無効資料調査のように古い資料を丹念に調べないといけない時はここに行くしか手がありません。しかも1970年代以前…ということはIPCではなくJPC(日本特許分類)!!別に仕分けられた冊子体です。調査の依頼があると2~3人チームで2~3日図書館に通いつめ、埃くさい冊子体をカサカサとめくりまくってました。新幹線から地下鉄に乗り換えそのまま図書館に直行、作業が終わったらホテルに泊まり最終日はそのまま東京に帰る、それが知財業界での初「大阪出張」でした。こんな出張を年に2~3回、時には梅田の地下街の階段横の今は亡き串揚げスタンドで軽く打ち上げしてから新幹線に乗車、これも「二度漬け禁止」初体験でした。

それから2~3年もするとデータベースも整備され、過去の公報もFIやFタームで検索できるようになり、わざわざ大阪へ出張する必要性は消滅しました(営業やヒヤリングの出張はあったけど)。また全文検索ツールができて公報手めくり自体が不要な作業になっていき、そしていつしか東京も大阪も冊子体を閲覧する場所はなくなりました。あの当時を思い出すと、閲覧室にはやたらと手めくりスクリーニングが早い「めくり屋」と呼ばれるプロが何人もいて部屋中でカサコソカサコソ頁をめくる音がこだましていたものです。時代と言ってしまえばそれまでですがあのおじさん達はその後どこにいってしまったのでしょう… あの頃に培った早めくりのワザは、僕も年に数回の一般文献調査で生かすこともありますが^^;

あれから20年、数年後には特許調査の手法が全く変わってしまいましたが、その後は商用検索ツールで検索してスクリーニングという業務をかれこれ十数年続けてきました。でも近いうちに再び状況が変わり、人間が今までの様な作業をやらなくても特許調査ができるようになったら、僕のような特許調査屋は当時のめくり屋のおじさん達のように不要になるのかもしれません。そんな「使えない人」にならないためにも常に「初体験」を求める姿勢が大切なのかもしれないなぁ…と昔を回想しつつ切に思った次第です。

2019年6月21日 (金)

簡単な調査は簡単ではない

先日サーチャーの事を書いたblog記事を見ました。ベテランサーチャーが依頼された調査を事も無げに完了して必要な資料をさっさと見つけてくる、でもどうしてこんなに簡単に見つけられるのか?と問われても自分でもよくわからないといった風情。こういう事は良くあります。しかもこのような場合は得てして検索式がシンプルな事が多いのです。確かになぜ簡単に見つけられるのかを説明できなくても、こういう状況が発生する事自体は説明がつきます。考えられる理由として、このような場合は探し出す資料が存在している目途がついているケースが多いという事です。例えばありがちな発明に対する出願前調査とか他社が保有する技術に対応する出願の検出等、所望の資料が存在している確率が高い場合には目的資料を一本釣りするようなやり方が有効です。つまり分類やキーワードを厳選して効率的に検索する事が可能であり、ベテランサーチャーほどこういうやり方は熟達しているでしょう。

ではベテランサーチャーはどうして適切な分類やキーワードを見つけてくる事ができるのでしょうか。これは「当該分野の調査経験が多い」事に尽きると思います。特許分類の体系を理解しているとともに、こういう技術内容にはこんな分類が付与される傾向が高い、といった実際の運用にも詳しくないと調査に適切な分類を選択することができません。またある分野において特定の概念を表す用語としてどんなものがあるか、またどういう用語だと効率的に対象を絞る事ができるのか、といった知識は技術分野の理解と共に調査経験を積むことが欠かせません。

つまり端的に言えばベテランサーチャーは対象分野において「分類に詳しい」「検索に適切なキーワードを理解している」が故に単純だけど最も適切かつ効率的な検索式で手早く資料を摘出してるのだと言えます。検索式の作り方に一般性のある規則があるわけでもないですし、世の中で思われているような「サーチャーだけが知っている特殊なスキル」があるわけではないのです。でも一件単純に見えるシンプルな検索式であっても、そこに到達するのは経験あるが故なのです。

もちろん実際には「分類を幅広く選択したらキーワードはなるべく限定する」「分類をピンポイントで選択したらキーワードはなるべく拡げる」といった検索のコツはあります。また無効資料調査や侵害調査などでは単純な式だけでは不十分なことも多いです。でも最初に挙げたような「簡単な式ですぐ見つける」というサーチャーの技は経験あってのものなので、公式化はできないと思います。

最近でも「プロの技にせまる」などと称した特許調査のセミナーがあったりしますが、普通の人ができないプロの技なんて無いと言えます。サーチャーがシンプルな検索式で効率的に資料を検出することができたとしても、それはプロの技があるわけではなくて、検索式を作る引き出しが経験に応じて増えるということであって、言葉で指導できるようなものじゃないと思います。例えば「その技術分野に精通している、公報も多く読んだ経験がある、でも検索は素人」という様な人に、先行技術調査のコツを教える…といった限定的な場面でなら指導できるかもしれませんが、それが限度じゃないでしょうか。

2019年4月28日 (日)

「技術者が行う特許調査」補遺

4/6の記事について、このような技術者が行う調査が有効になるのは以下の様な場合と思われます。
1) 技術者が年数件の頻度で発明を創作する。
2) 一つの発明/出願に対する重要度が高くない。
3) 出願した場合の登録率が低い。

 

発明自体の件数が少なければ、知財担当者の労力自体が少なく、また技術者の調査能力向上にもつながりにくいので知財部で調査した方が良いでしょう。また一つの発明がその会社にとってとても重要な地位を占めるような場合は、出願前であっても精密な調査を実施した方がよいと思われます。3)ですが、化学系は登録率も高く調査自体も簡単ではないので、技術者の簡便な調査では効果が出ない可能性があります。

 

以上をまとめると「技術者が行う特許調査」が効果的なのは出願件数が100件/年以上はある機械/電気系の中規模もしくは大企業ではないでしょうか。というわけでご連絡お待ちしてますw

2019年4月13日 (土)

テーマ調査の難しさ ②特許固有の難点

テーマ調査におけるテーマとはあくまで「一言で言える」テーマであって解釈に幅があるため検出条件を定義するものではない、と前記事で書きました。ではテーマの語義が明確であれば的確なテーマ調査が実施できるでしょうか。そこには特許明細書の書き方、特許の在り様に起因する特許特有の問題点が存在しています。

一例として「クリスマスツリーにLED照明を用いる技術」に関する特許公報を収集するとします。この場合「クリスマスツリー」も「LED」も定義は明確ですし、テーマが指定する技術内容もはっきりして、そこには疑問がないように思えます。

それでは「クリスマスツリーにLED照明を用いる技術」が書かれている特許資料とはなんでしょう。例えば「クリスマスツリー用にLEDを小型化した/点滅制御装置を改良した」とか「LEDを用いるためにツリーにある部材を設けた」等の記載があればその公報は正しく該当します。しかしながらLEDや制御装置の改良に関する特許で、明細書の後ろの方に一言だけ「この発明のLEDは○○、××…、クリスマスツリー等に用いる事が可能である」と書いてあった場合は該当するでしょうか?発明者が利用分野としてたまたま思いついたから取りあえず追加しただけであって、クリスマスツリーに使うことは特に想定していない可能性も大いにあります。

そんな「つけ加えただけ」の資料を除外するために、特許資料なのだから技術が意図するところが【要約】【請求の範囲】等の特定の項目に書いてあるのでは?という考えもあるでしょう。でも出願人がクリスマスツリー用に開発したLEDだが他用途にも利用可能であると見いだした場合、わざわざ請求の範囲をクリスマスツリーに限定せず出願するのはよくある事です。そうすると【要約】【請求の範囲】にはクリスマスツリーの語句が無くても、実際には「クリスマスツリー用LED」の技術に関する公報といえます。こういう公報では特定の項目だけではなく全文の記載からの判断が必要になります。

では実施例として具体的な記載があればよいでしょうか?例としてクリスマスツリーに関する発明で、実施例中に照明として「LED」と記載された公報があったとします。この公報では確かに「LEDを用いたクリスマスツリー」が例示されていますが、その記載ではLEDを用いたからこその発明がなされたのか、もしくは点光源の種類は発明に無関係で単にLEDを例に選択して説明したのかを判別することはできません。つまり「クリスマスツリーにLED照明を用いる<ための>技術」かどうかはわからないのです。

このように「クリスマスツリーにLED照明を用いる技術」というテーマの意味するところが明確であっても、公報からは「クリスマスツリーにLED照明を用いる」事が記載されているかどうか、また【要約】【請求の範囲】【技術分野】【実施例】等のどこに記載されているかを区別することが可能なだけなのです。つまり公報に記載された発明が「クリスマスツリーにLED照明を用いる」事を<主眼>にした技術かどうかは実際のところ出願人しか知り得ず、記述内容から判定することは困難なのです。

前回と今回の記事を含めてまとめます。調査テーマが簡潔であればあるほどテーマの語義が明確ではないため、また明細書がそもそも発明の主眼を読み取にくい書かれ方をしているため、適否の線引きが曖昧になり判断が難しくなります。依頼されて行う調査の場合は特に「主観的に」判断する事ができません。依頼元に、あくまで記載内容を基に摘出する作業であることを納得してもらい、要否の線引きを明確化し調査者との間で合意する事が必須である…これがテーマ調査の難しさと思います。

2019年4月10日 (水)

テーマ調査の難しさ ①「~に関する」は危ない

このblogで何度も書いているように、特許調査は「探す物」「探す場所」という観点から特許性調査・権利性調査・収集調査と3つにわけており、特許性調査と権利性調査ではその在り様から「探す物」「探す場所」が一義的に限定されます。それに対して「こういう技術に関する特許を集めてほしい」というようなテーマ調査の場合、「探す物」「探す場所」は任意であって調査依頼元の要望に応じて設定されます。
このようなテーマ調査では往々にして依頼元の所望する「探す物」は一言で言い表せるような簡潔な「テーマ」で示される事がありますが、実は簡潔なテーマで指示される時ほど調査が困難になるケースが多いのです。

例えば「AIを使った農業機器に関する特許」を収集する場合を考えます。このテーマ自体はとてもわかりやすく、具体的な技術のイメージも浮かんできます。では「AI」とはなんでしょうか。公報中に「AI」「人工知能」の文字が書いてあれば確かにAI技術でしょう。でも「AI」の文字が無くても検知した情報を収集解析し、それを基に判断して自律的に作動する技術であれば人工知能と言えそうです。そうはいってもフィードバック制御やファジー制御のような技術を人工知能とするのは範囲が広げ過ぎのように感じます。人工知能そのものに関する特許であれば具体的な記載があるので何らかの線引きは可能でしょう。でも農業分野への応用となると公報中にどのような用語・記載でAI技術が書かれ得るのかは千差万別で、「何が人工知能か」という定義が難しいのです。

その一方で「農業機器」についても、トラクターとか温室管理装置とか搾乳機なら一目瞭然ですが、該当するかどうか悩ましい資料も出てきます。カントリーエレベーターの様な穀物貯蔵設備が農業機械なら、収穫した野菜や果物を保存する冷蔵庫だって農業機械と言えなくはない。そうすると収納するものがカボチャか小麦粉かお惣菜かで冷蔵庫が農業機械か否かを判定するのでしょうか?または薬剤散布ドローンだって、散布場所が畑や牧場だったら農業機械だけど公園やテーマパークなら農業機械ではないということになってしまいます。やはり「何が農業機械か」という定義は恣意的になってしまいます。

このようにテーマ調査では、テーマが簡潔であればあるほど適否の線引きが難しいという事が良くあるのです。結論としてテーマはあくまでテーマであって「探す物」ではなく、検出すべき資料を明確に定義し、依頼元と調査実施者の間で事前に合意しておかないとテーマ調査はいい結果を得られない、という事になります。

2019年4月 6日 (土)

「技術者が行う特許調査」レジメ

レジメ第2弾として技術者向け特許調査の講義内容を考えてみました。これもまだ骨子だけです。特に検索式の実例はいろいろ考える余地がありますし、要望に応えることもできそうだと思います。

<前文>
研究職や現場担当などの技術者は実際に発明を創出する本人であり、発明をもっともよく理解しているはずです。従って技術者が発明前調査などの特許調査を行うことには大きな意義があります。しかしながら「特許調査は難しい」「時間がない」などの理由で実際に調査が行われることは少なくありません。そのような非知財部門向けに通常行われるセミナーでは特許調査の容易性をアピールして調査実施を勧奨していますが、短期間でスキルを習得するのは難しく、そのためたまに実行しても効果を上げにくいという悪循環に陥りがちです。
この講義では「特許調査は簡単」ではなく視点を変えて「技術者がやるような簡便な調査でも十分意義がある」という事を説明し、その後の調査スキル向上への「糸口」を示した上で技術者へ調査実務に誘う、という方法で話を進めたいと思います。

対象
①非知財部門の技術者(研究職、技術者)
②知財担当者(①への指導教育役として)

<目次>
0 講義の目的
  「調査は簡単ではない」
  「技術者は暇じゃない」
1 なぜ技術者がやるか
1-1 技術者がやるメリット
   実際に発明している
   特許に慣れる→発明の向上
1-2 担当者と能力の関係
   技術者/知財担当/調査専従
   技術理解と調査能力は負の相関
1-3 調査能力と時間
   調査専門職 1万h
   特定調査 数百h
   →とてもそこまで求められない
1-4 調査精度と効果
   数値例 50%精度でも経費削減
   →精度が低くても効果はある
1-5 技術者に求められる調査
   「簡易的」でよい
2 実際の作業
   発明提案書を書く前に1~2時間作業
3 特許調査をやる前に…
3-1 自社先行技術の確認
   発明提案書ファイル
3-2 概念検索
   発明の言語化
4 実際の特許検索
   特定技術の出願前に特化
4-1 概念的検索式
   調査テーマの集合化
4-2 キーワード検索
   立式は容易 拡散しやすい
4-3 分類について
   FI/Fターム
   事前把握が重要
4-4 実例
(→ここは出席者/顧客に合わせて)
5 結論
   見つける事だけが重要ではない
   技術者の能力向上

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<1-2 担当者と能力の関係>や<1-3 調査能力と時間>はこのblogで7月に書いた記事の様な話になる予定です。<4-4 実例>については、特定の企業で話をする場合は実際の技術/発明/出願に応じて対象案件を選んで調査手法を講義する事が可能と思います。

2019年3月26日 (火)

検索式の意味するところ

特許調査とは所望の資料の有無を確認することであり、対象の資料がなるべく全て含まれるように調査範囲を設定する必要があり、その範囲を策定するのが検索式です。適切な検索式によって策定された母集団の中には対象資料が含まれていますが、ではその母集団自体はどのような意味があるのでしょうか。

ある概念が記載された特許資料を検出する場合、検索式として通常はキーワードと分類を検索キーとして用います。そこでキーワード検索と分類検索について考えます。

キーワード検索は資料の特定の箇所にその語句が用いられた資料が母集団となります。例えば「本文=鉛筆」というキーワードで検索を行うと、本文中のどこかに「鉛筆」という語が用いられた資料がヒットするわけであり、鉛筆を技術特徴や利用分野としている資料を選抜するわけではありません。つまりキーワード検索は資料の概念を選択しているのではないのです。

それに対して分類検索は指定した分類が付与された特許がヒットしますので、指定の特許分類の定義に該当する概念の資料が母集団になります。しかしながら所望の資料全体を示す概念そのものが特許分類に相当する場合を除くと、概念的に重なりがあったとしても同じではないので、分類検索によって所望の概念を選抜するのは困難です。

つまり検索式により検出された資料はあくまで指定の分類、キーワードを含む資料の集合であって、「○○の××に関する技術」といった特定の概念範囲を規定するものではないのです。これまでblogで書いてきたように所望の資料が母集団から漏れないように検索式を作成することは可能でも、検索でヒットした資料全てが所望の概念に該当する検索式というのは基本的に不可能だと思います。

特許検索については良く「ノイズを減らす」という言い方がされます。検索で抽出された集団の中で自分達が意図していない資料をノイズと呼ぶのですが、そもそも検索式で母集団を特定の概念に規定する集合に限定すること自体が無理なのですから、検索式が正しくても意図していない資料が検出されるのは当然です。検索式を適正化するには「ノイズを減らす」というよりは必要な資料が漏れ落ちないような更なる限定条件を見出す、という考え方の方が適格でしょう。

最近は分析ツールを用いた特許分析が主流ですが、通常は検索式でヒットした特許「全件」を対象母集団としています。ということは母集団全体がどういう概念を意味しているのかが大変重要なはずなのですが、そこまで踏み込んで式作成をしているケースはあまり見受けられません。ツールによるマクロな分析は大まかな潮流を見るには適切でも「特定の概念」を精査するのには向いていない~という事は「検索式の意味」を考えると分かっていただけるのではないでしょうか。

2019年3月17日 (日)

「特許調査の頼み方」 レジメ

突然ですが「特許調査の頼み方」という表題で講演する事を考えています。何らかの形で自分でも機会を作りたいとは思っていますが、こういう話を聞いてみたい/話させてみたいとお思いの方はご一報ください。
実際の原稿はまだ作ってないですが、目次に従って話す内容はある程度考えています。

<前文>
研究者や開発部門などでは実際に自分が扱う技術、製品に関して特許調査を行うのが通常ですが、それに対して知財部や特許事務所など対象の技術や製品について当事者・専門ではない人が特許調査を「頼まれる」場合に思っていたのと違う」結果にな理がちです。それは技術に対する知識が異なるというだけでなく、調査したいテーマと実際に行う調査作業の間でズレが生じている事が要因であるケースが多いと思います。

この講演では特許調査の本質的在り様を元に依頼者の「調査したい事」と調査者の「調査でできる事」の差異を明確にし、調査を「頼む」「頼まれる」時に考えるべき事をお伝えしたいと思います。

対象者 調査を他人(社内/外)に「頼む」、他人から「頼まれる」部署にいる人(知財部、特許事務所員等)

<目次>
0 講義の目的
   対象 依頼者および調査者
   頼む側/頼まれる側 立場の違いを考える
1 特許調査の基本
1-1  調査とはなにか
1-2  特許調査 3種類
2 頼む/頼まれる 関係
2-1  調査担当は専門家/当事者ではない
2-2  客の要望 目的は調査することではない
    要望を探すことは不可能
2-3  何処/何を探せばよいのか
    相互のコンセンサスが必須
3 実務
3-1  まずは調査種類の確立
    侵害か収集か
    知財を知らない人もいる
3-2  無効資料
    対象の明確化
    調査対象(29-2)
    検出基準には幅がある
    上位概念
     組合せ
     併用
3-3  出願前/審査請求前
    企業規模によって異なる可能性
3-4  侵害回避
    頼む方 実施形態を示せば済む
    頼まれる方 どこまでが公知技術か
    組合せ 単独だと公知
    分類 一つの基準
3-5  テーマ収集 実は一番難しい
    「○○に関する技術」定義?
    分類は一面的
    記載場所 要約/請求の範囲/実施例…
    検出基準の確定
4 結論
   目的と調査対象の合致
   →頼まれる側の見極めにもなる
5 オマケ 調査会社について
5-1  代理人ではない あくまで代行
5-2  調査会社の見分け方

2019年3月10日 (日)

2018年 書評

自分のSNS上で去年のまとめとして、読んで感銘を受けた知財系本3冊を紹介しました。(3冊しか読んでないのでは?とか著者が全て知り合いだろ!とか細かい事は気にしないでください。)僕とSNS上でつながってなくてこのblogを読んでいる方がどれくらいいるかわかりませんが、そのような方々のために今更ながらこの3冊を推薦させていただきます。

・ストーリー漫画でわかる ビジネスツールとしての知的財産 (大樹七海著)
大抵の「マンガで~」系の本では、おざなりな粗筋のマンガを付け加えただけだったり、教えたい情報をマンガに置き換えただけの事が多いですがこの本は違います。「知財の力を活用してAI碁で勝利を収める」という字で書くとなんだかわからないような話をうまくストーリー化しており、「知財」「最新技術」「ビジネス」というテーマをマンガの中で見事に止揚!しています。しかも絵は全てデジタルに描かれているという… これが単行本デビュー作とは驚きですが、著者にはまだまだ描きたいネタがたくさん有るらしくまさに脱帽するしかありません。

・こうして知財は炎上する (稲穂健市著)
まさに安定のいなぽんさんの本。今はやりの「炎上」を軸に様々な知財のトピックスを包括的に把握することができるという点で、教科書的ではなくとも教科書的に読むことができる良書です。同じ知財と言っても特許と商標と著作権では在り様も法的背景も異なるはずなのですが、それらを一つの流れとして俯瞰的に理解させる事ができる構成力と文章表現には毎度のことながら感服します。あと「歩く知財ネタ事典」ともいうべきネタの豊富さとクスッとさせる小ネタもいいですよねぇ。

・オリンピックvs便乗商法 (友利昴著)
友利氏の著作は「へんな商標?」のようないい意味で腰砕け(なにせ挿絵が和田ラジヲ!)なイメージもあったのですが、今作は打って変わってシリアスな超大作。表題で受ける印象とはちょっと違ってIOCが「アンブッシュマーケティング」というレッテル貼りによって自分達の<知財>権益を拡大させてきた手法を明らかにし、その根源にある商業主義の弊害を糾弾しています。「その筋から狙われないの?」と心配する人が続出という噂も… もっともユーモラスな文体は健在で、あっという間に読み進められます。

以上の3冊はどれも専門的な話にもかかわらず知財に詳しくない人でも読みやすくなっています。また本の出来についても「伝えたい事が明確である」「伝えたい内容を示すプロットがしっかりしている」「内容を伝えるための表現が種類量ともに豊富である」以下の点が共通しています。良い本ならこれら全てを備えていて当たり前かもしれません。でも特に知財関連の本はただ漫然と情報や知識を詰め込んでいるだけの本が目立ち、このような点を満たす本は意外と少ないと思います。それ以上に自分のblogに欠けているのがこの部分だなと痛感する次第であります。

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