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2019年1月

2019年1月15日 (火)

一般文献調査のポイント

新規性や進歩性の判断の対象となる資料は特許に限定されないため、出願前調査や無効資料調査で特許以外に一般文献を調査対象とすることは可能です。しかしながら実際に一般文献調査を行っても特許調査より劣った結果しか得られないケースが通常であり、一般文献調査を行った方が良い理由が明確でない場合は効果が少ないと思います。では一般文献調査が有効であるのはどのような時でしょうか。考えられるケースを以下に列記します。

○基礎研究
特に大学や公的研究機関による出願ではいわゆる「基礎研究」に該当する技術が見受けられます。こういう発明に対する無効資料としては特許文献よりも一般文献、特に学術論文が有効です。また大学/研究機関の発明に対する出願(審査請求)前調査では、発明者の特許に関する知識が乏しい、論文における新規な発見と特許における進歩性とは感覚が異なる、等の点から発明者自身が特許性に影響を与え得る先行論文を投稿しているケースも少なくないので、発明者名による論文の著者名検索が重要であることも多いです。

○子細な改良
本来なら出願権利化するほどの技術でもない子細な改良、最適化のような技術が何故か登録されてしまったような発明については、特許文献だけではなく一般文献に有効な資料がある場合があります。例えば子細な技術に対して権利化を求めず公知化させる発明技報、企業の自社動向を報告する企業技報、トランジスタ技術や日経エレクトロニクスの様な技術系雑誌、業界誌が調査対象になる事が多いです。

○化合物/組成物
医薬系の学術論文では実験で多種の化合物や組成物を比較してその結果を報告するのは通常です。従ってある化合物/組成物特許の先行例となる特許文献が無かった場合は学術論文の中で、その化合物/組成物が研究の主題ではなくてもなんらかの実験例として開示されている可能性があります。そのようなケースでは論文誌や学会予稿集が有効な可能性があります。ただし樹脂など一般的な化学工業系の技術だと論文になる可能性はかなり低いでしょう。

○アイディア
現行の特許制度では単なるアイディアやスキーム自体には特許性を認めず、特定の技術や実際の装置との関わりがあって初めて特許性を有します。しかしながらそのような特許であっても発明の特徴自体がアイディアそのものである場合、そのアイディアの開示が公知例となり得ます。そのような開示が探すためには、どんな資料に記載され得るのか想像力を巡らす必要があります。特許か文献かだけでなく、どんな雑誌かどんな書籍かといった文献の種類も内容によって様々でしょう。実際にアニメや映画が引例となった事例もあります。

○技術常識
無効資料調査において、複数の技術開示の単なる組合せでは到達容易と判断されず進歩性が否定されない場合でも、一方の技術は周知技術または当時の技術常識/技術水準であるため他の技術との組合せによる到達が容易と見なされうるケースがあります。こういうケースではある事実が「周知技術」「技術水準」として認識されている事を示す必要があります。当該内容が事典や参考書等に記載されていると当時の技術水準として認められやすいため、これらの資料が調査対象として有用でしょう。

このほかにもあるかもしれませんが、逆に言うとこういうケース以外では公知例調査としての一般文献調査は特許調査に比べて可能性がかなり低いと考えられます。多くの場合、一般文献調査は「ここも探したけども目的の資料は存在しなかった」と確認する作業、と割り切った方が良いのかもしれません。

一般文献調査ではもう一つ、資料へのアクセスが重要な問題になってきます。通常販売されている書籍/雑誌や、学会等の論文、報告書等であれば図書館等に所蔵されているので容易に見ることができます。それに対してカタログ、パンフレット、取扱説明書の類は詳細なデータが書いてある可能性もあり、先行技術調査の対象として有用ではありますが、これらに特化して収集している個人/組織があるわけではなく、閲覧/貸与/購入など一般文献で行われるの通常の入手方法では取得困難であることがほとんどです。なのでこれらを調査対象として設定するにはかなり無理があります。一般文献では探す対象以外にも「探せる範囲」を意識しておくことが重要です。

ちなみに筆者は特許調査の業務を20年にわたって続けてきましたが、一般文献調査で「完膚なきまでに潰せる」無効資料を見つけたという経験はありません。それくらい「過度に期待してはいけない」作業だと思います。

2019年1月10日 (木)

検索式コンテスト

最近、自分のSNSのTL上で請求項の作成能力を試す競技に関する話題が出ていました。このblogで以前参加した弁理士の日記念ブログ企画の主催者であるドクガク氏もクレームドラフトコンテストを開催したことがあり、自分は明細書を書けないので横目で見ていました。では特許調査の分野においてこのような企画、つまり検索式コンテストの様な事は可能でしょうか?

検索式コンテストとして、同一の主題に対して複数人が作成した複数の検索式を評価するとしてもいろいろな問題点が考えられます。

以前記事にしたように依頼元にとっての特許調査の目的は「特許性があるか」「実施可能か」「技術がどう推移したか」といったを知る事であって、「こういう資料を探したい」とうことが明確化されてない事が多いです。つまり依頼元の要望をくみ取って何を探すべきかを明確化するのが調査屋に求められる能力の「最初の」肝であって、それに基づいて調査方針を立てるのは「その次の」肝と言えます。だから「こういう資料を探したい時にどういう検索式を立式しますか?」では調査屋の技能の一面しか評価できないことになります。それに対して「どういう資料を探せばよいですか?」という点まで設問に含めると、技術常識、公知文献や引例等の既知情報によって回答が変わるため一義的な評価は不可能になります。

また評価についてはどんなキーワードが用いられているかが検索式の良し悪しと考えられます。しかしある技術分野の特許出願において特定の概念/対象についてどのような用語が用いられているかは、当業者でない限り実際にその技術分野の公報を読まないと分からないことがあります。実際の特許調査においても、スクリーニング中により適切なまたは頻出する用語が見つかり、見積時に設定した検索式に追加して調査を補完することはよくあります。キーワードの適切な選択という視点で評価すると、調査能力とは別に当該分野における特許調査の「経験値」まで評価されてしまい、公平とは言えないでしょう。

そして最大の問題は「どんな式を良しとするか」という事でしょう。その調査にかけられる時間やコストに応じて効率よく最大限にカバーできる検索式が最も良い式、というのは身もふたもない話ですが実際でしょう。同じ特許性を否定する目的であっても出願前調査の様にコストをかけたくないのか、無効資料調査のように徹底的にやる必要があるかでよい検索式は全く異なります。
また同じテーマであっても分類やキーワードを幅広くとり限定を緩くした検索式と、検索キーをより綿密に限定して調査範囲を狭めた検索式ではどちらが良いといえるでしょうか。前者であれば「より多くの公報に目を通してもらった方が安心できる」でしょうし、後者なら「本当に必要な資料だけじっくり読んでくれるので信頼できる」と思うかもしれません。もしこの両者に見積を依頼して査読件数は違うけど費用は同じだったらどちらを選択するべきでしょうか。こうなると好みの問題でしかありません。筆者はずっと前者寄りのスタンスで仕事をしてきましたが、こういうやり方に理解がある人が筆者のクライアントとして残ってきた…というのが実情かもしれません。

以上をまとめますと検索式コンテストは
・「調査テーマの抽出」は出題しにくい。
・技術分野に対する知識や経験で結果に差が出る。
・よい検索式という評価軸が流動的。
という難点があり競技としては成り立ちにくいと思われます。しかしながら特定の技術分野において前提条件を統一した上で複数の検索式を見せ合うディスカッション形式ならできる可能性もあるし有意義だと思います。。筆者の意見としては「検索式の悪い部分はすぐわかるが何が良い検索式かは決められない」というところでしょうか。

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