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2019年3月

2019年3月26日 (火)

検索式の意味するところ

特許調査とは所望の資料の有無を確認することであり、対象の資料がなるべく全て含まれるように調査範囲を設定する必要があり、その範囲を策定するのが検索式です。適切な検索式によって策定された母集団の中には対象資料が含まれていますが、ではその母集団自体はどのような意味があるのでしょうか。

ある概念が記載された特許資料を検出する場合、検索式として通常はキーワードと分類を検索キーとして用います。そこでキーワード検索と分類検索について考えます。

キーワード検索は資料の特定の箇所にその語句が用いられた資料が母集団となります。例えば「本文=鉛筆」というキーワードで検索を行うと、本文中のどこかに「鉛筆」という語が用いられた資料がヒットするわけであり、鉛筆を技術特徴や利用分野としている資料を選抜するわけではありません。つまりキーワード検索は資料の概念を選択しているのではないのです。

それに対して分類検索は指定した分類が付与された特許がヒットしますので、指定の特許分類の定義に該当する概念の資料が母集団になります。しかしながら所望の資料全体を示す概念そのものが特許分類に相当する場合を除くと、概念的に重なりがあったとしても同じではないので、分類検索によって所望の概念を選抜するのは困難です。

つまり検索式により検出された資料はあくまで指定の分類、キーワードを含む資料の集合であって、「○○の××に関する技術」といった特定の概念範囲を規定するものではないのです。これまでblogで書いてきたように所望の資料が母集団から漏れないように検索式を作成することは可能でも、検索でヒットした資料全てが所望の概念に該当する検索式というのは基本的に不可能だと思います。

特許検索については良く「ノイズを減らす」という言い方がされます。検索で抽出された集団の中で自分達が意図していない資料をノイズと呼ぶのですが、そもそも検索式で母集団を特定の概念に規定する集合に限定すること自体が無理なのですから、検索式が正しくても意図していない資料が検出されるのは当然です。検索式を適正化するには「ノイズを減らす」というよりは必要な資料が漏れ落ちないような更なる限定条件を見出す、という考え方の方が適格でしょう。

最近は分析ツールを用いた特許分析が主流ですが、通常は検索式でヒットした特許「全件」を対象母集団としています。ということは母集団全体がどういう概念を意味しているのかが大変重要なはずなのですが、そこまで踏み込んで式作成をしているケースはあまり見受けられません。ツールによるマクロな分析は大まかな潮流を見るには適切でも「特定の概念」を精査するのには向いていない~という事は「検索式の意味」を考えると分かっていただけるのではないでしょうか。

2019年3月17日 (日)

「特許調査の頼み方」 レジメ

突然ですが「特許調査の頼み方」という表題で講演する事を考えています。何らかの形で自分でも機会を作りたいとは思っていますが、こういう話を聞いてみたい/話させてみたいとお思いの方はご一報ください。
実際の原稿はまだ作ってないですが、目次に従って話す内容はある程度考えています。

<前文>
研究者や開発部門などでは実際に自分が扱う技術、製品に関して特許調査を行うのが通常ですが、それに対して知財部や特許事務所など対象の技術や製品について当事者・専門ではない人が特許調査を「頼まれる」場合に思っていたのと違う」結果になりがちです。それは技術に対する知識が異なるというだけでなく、調査したいテーマと実際に行う調査作業の間でズレが生じている事が要因であるケースが多いと思います。

この講演では特許調査の本質的在り様を元に依頼者の「調査したい事」と調査者の「調査でできる事」の差異を明確にし、調査を「頼む」「頼まれる」時に考えるべき事をお伝えしたいと思います。

対象者 調査を他人(社内/外)に「頼む」、他人から「頼まれる」部署にいる人(知財部、特許事務所員等)

<目次>
0 講義の目的
   対象 依頼者および調査者
   頼む側/頼まれる側 立場の違いを考える
1 特許調査の基本
1-1  調査とはなにか
1-2  特許調査 3種類
2 頼む/頼まれる 関係
2-1  調査担当は専門家/当事者ではない
2-2  客の要望 目的は調査することではない
    要望を探すことは不可能
2-3  何処/何を探せばよいのか
    相互のコンセンサスが必須
3 実務
3-1  まずは調査種類の確立
    侵害か収集か
    知財を知らない人もいる
3-2  無効資料
    対象の明確化
    調査対象(29-2)
    検出基準には幅がある
    上位概念
     組合せ
     併用
3-3  出願前/審査請求前
    企業規模によって異なる可能性
3-4  侵害回避
    頼む方 実施形態を示せば済む
    頼まれる方 どこまでが公知技術か
    組合せ 単独だと公知
    分類 一つの基準
3-5  テーマ収集 実は一番難しい
    「○○に関する技術」定義?
    分類は一面的
    記載場所 要約/請求の範囲/実施例…
    検出基準の確定
4 結論
   目的と調査対象の合致
   →頼まれる側の見極めにもなる
5 オマケ 調査会社について
5-1  代理人ではない あくまで代行
5-2  調査会社の見分け方

2019年3月10日 (日)

2018年 書評

自分のSNS上で去年のまとめとして、読んで感銘を受けた知財系本3冊を紹介しました。(3冊しか読んでないのでは?とか著者が全て知り合いだろ!とか細かい事は気にしないでください。)僕とSNS上でつながってなくてこのblogを読んでいる方がどれくらいいるかわかりませんが、そのような方々のために今更ながらこの3冊を推薦させていただきます。

・ストーリー漫画でわかる ビジネスツールとしての知的財産 (大樹七海著)
大抵の「マンガで~」系の本では、おざなりな粗筋のマンガを付け加えただけだったり、教えたい情報をマンガに置き換えただけの事が多いですがこの本は違います。「知財の力を活用してAI碁で勝利を収める」という字で書くとなんだかわからないような話をうまくストーリー化しており、「知財」「最新技術」「ビジネス」というテーマをマンガの中で見事に止揚!しています。しかも絵は全てデジタルに描かれているという… これが単行本デビュー作とは驚きですが、著者にはまだまだ描きたいネタがたくさん有るらしくまさに脱帽するしかありません。

・こうして知財は炎上する (稲穂健市著)
まさに安定のいなぽんさんの本。今はやりの「炎上」を軸に様々な知財のトピックスを包括的に把握することができるという点で、教科書的ではなくとも教科書的に読むことができる良書です。同じ知財と言っても特許と商標と著作権では在り様も法的背景も異なるはずなのですが、それらを一つの流れとして俯瞰的に理解させる事ができる構成力と文章表現には毎度のことながら感服します。あと「歩く知財ネタ事典」ともいうべきネタの豊富さとクスッとさせる小ネタもいいですよねぇ。

・オリンピックvs便乗商法 (友利昴著)
友利氏の著作は「へんな商標?」のようないい意味で腰砕け(なにせ挿絵が和田ラジヲ!)なイメージもあったのですが、今作は打って変わってシリアスな超大作。表題で受ける印象とはちょっと違ってIOCが「アンブッシュマーケティング」というレッテル貼りによって自分達の<知財>権益を拡大させてきた手法を明らかにし、その根源にある商業主義の弊害を糾弾しています。「その筋から狙われないの?」と心配する人が続出という噂も… もっともユーモラスな文体は健在で、あっという間に読み進められます。

以上の3冊はどれも専門的な話にもかかわらず知財に詳しくない人でも読みやすくなっています。また本の出来についても「伝えたい事が明確である」「伝えたい内容を示すプロットがしっかりしている」「内容を伝えるための表現が種類量ともに豊富である」以下の点が共通しています。良い本ならこれら全てを備えていて当たり前かもしれません。でも特に知財関連の本はただ漫然と情報や知識を詰め込んでいるだけの本が目立ち、このような点を満たす本は意外と少ないと思います。それ以上に自分のblogに欠けているのがこの部分だなと痛感する次第であります。

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